搬送姿勢を科学する ~Trendelenburg体位の効果は悩ましい~
今日もショックの時に行いえるTrendelenburg体位のEvidenceをみていきます。救命士、研修医や病棟看護師にも知っておいてほしい内容です。
前回お話したとおり、
Trendelenburg体位は、仰臥位の状態から頭を数度(wikipediaでは15-30°、文献(Ann Emerg Med. 1985;14:641) によっては10°の報告も)下げる姿勢です。
さて、このTrendelenburg体位などですが、結論からいうと
①ショックの場合でも、効果があるケースとないケースがあるのでルーティーンにやりつづける意義は乏しい
②効果のないケースの可能性として、数分で効果がなくなってしまうことがあるよう
③肺活量の減少や頭蓋内圧亢進の可能性などは指摘されているが、あくまで可能性。15分程度の短時間であれば、大きな問題はないよう
④理屈の上では心原性ショックの時にやる意義は乏しく、逆に悪化させるかも
⑤Trendelenburg体位をするくらいなら、まだ受動的脚挙上(Passive Leg Raise)=足側高位の方がよいかも
⑥近年は、PLRは治療のための体位というよりは、輸液反応性をみるための診察という位置づけが増している
です。
これを数日にわけてその背景をお伝えしていきます。
今日は
①ショックの場合でも、効果があるケースとないケースがあるのでルーティーンにやりつづける意義は乏しい
を掘り下げます。
1000人の集中治療看護師にアンケート(有効回答は約半数)すると、
低血圧やCV挿入時に99%がTrendelenburg体位, 80%がmodified Trendelenburg体位(=PLR, 足側高位)をやるという結果がある(Am J Crit Care. 1997;6:172)ほど、看護師を中心にコメディカルにはなじみのある体位だと思います。
そんな、Trendelenburg体位ですが、
ざっくり言えば、よいEvidenceがないので、shockでTrendelenburg体位をすべきかよくわからない(Am J Crit Care. 2005;14:364)とのこと。
え?そんな!?と思う方もいらっしゃるでしょう。
少し詳しく見てみます。
理屈の上では、頭をさげる or 足を上げることで、心臓への血液流入量を増やし(正確には前負荷)、心臓の1回拍出量を増やす、ひいては、血圧(平均動脈圧)をあげ、組織への酸素運搬をあげたいわけです。
じゃあ、これらの体位をとることで、どれくらい血液の分布が変わるか?それを調べた研究があります。
シンチグラフィーという特殊な画像検査(99mTcで赤血球をラベルして循環血漿量を評価する)をしてみると、10°傾けるTrendelenburgで仰臥位の状態からTrendelenburg体位になることで上半身に1.8%(98ml)の血液量が増え、下半身は3.2%(175ml)減った(Ann Emerg Med. 1985;14:641)
「え、約100ml?だけ」と思いませんか?
もちろん、10°だけ傾けたTrendelenburg体位なので、もう少し傾ければもう少し血液の分布は上半身側≒心臓側へ増えるでしょうが、それでもせいぜい血液量の数%の変化のみというのが現実です。
そうはいっても、そのわずかな心臓への血液量増加(≒前負荷増加)で、心拍出量や血圧があがるというEvidenceがあればよいのですが、
・6人のショックと5人の正常血圧の11人を検査したところ、9人でTrendelenburg体位をしても収縮血圧・平均動脈圧改善せず(Surg Gynecol Obstet 1967;124:1005 )
・61名の正常血圧+15名の低血圧で心疾患 or 敗血症患者でTrendelenburg体位で前負荷や平均動脈圧変化せず(Crit Care Med 1979;7:218)
という否定的なものもあれば、
・システマティックレビューで246人の患者(正常体液 or 体液減少が混在)がTrendelenburg体位をとると、頭を下げて1分でCO 9% or 0.35L/min増加した
という肯定的な結果も。
つまりは、結果が二分されています。
=よくわからないということです。
確かに効果がある例もあるようなので、
試す価値はあるかもしれないですが、
後述する「効果のある時間は限定的」などの注意事項を知り、
効果がないならやめるなどの対応は必要なのかもしれません。
日々是勉強!