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搬送姿勢を科学する ~Trendelenburg体位の悪影響も短時間なら大丈夫?~

今日もショックの時に行いうるTrendelenburg体位のEvidenceをみていきます。救命士、研修医や病棟看護師にも知っておいてほしい内容です。

前回お話したとおり、

Trendelenburg体位は、仰臥位の状態から頭を数度(wikipediaでは15-30°、文献(Ann Emerg Med. 1985;14:641) によっては10°の報告も)下げる姿勢です。

さて、このTrendelenburg体位などですが、結論からいうと

①ショックの場合でも、効果があるケースとないケースがあるのでルーティーンにやりつづける意義は乏しい

②効果のないケースの可能性として、数分で効果がなくなってしまうことがあるよう

③肺活量の減少や頭蓋内圧亢進の可能性などは指摘されているが、あくまで可能性。15分程度の短時間であれば、大きな問題はないよう

④理屈の上では心原性ショックの時にやる意義は乏しく、逆に悪化させるかも

⑤Trendelenburg体位をするくらいなら、まだ受動的脚挙上(Passive Leg Raise)=足側高位の方がよいかも

⑥近年は、PLRは治療のための体位というよりは、輸液反応性をみるための診察という位置づけが増している

今日は

③肺活量の減少や頭蓋内圧亢進の可能性などは指摘されているが、あくまで可能性。15分程度の短時間であれば、大きな問題はないよう

を掘り下げます。

このTrendelenburg体位がもてはやされたのは、

第一世界大戦以後≒1910年前後以後ですが、

否定的な見解が出始めているのは、1960年代のようです。

例えば、救急学会でも指摘されていた

「救急領域では,静脈還流が増加し血圧が上昇するとの考えから,ショック時にとらせる体位とされる。そのため,ショック体位として推奨されていた時期もあるが,心拍出量が必ずしも増加せず,脳浮腫の助長や,横隔膜挙上により呼吸機能が低下する可能性も指摘されている」とありました。

そのような記載は1967年のSurg Gynecol Obstetに、例えば見られており、ここでは横隔膜圧迫による肺容量の低下の可能性と脳浮腫の可能性が指摘されています(Surg Gynecol Obstet 1967;124:1005)

ただ、これはあくまで可能性にとどまり、過度にナーバスにならなくてもよいように感じます

例えば、

・高齢者(平均年齢68歳)の22人の術後患者にTrendelenburg体位を15分とっても、特に有害事象はなかった(South Med J. 1988;81:1258)

・CO2送気のロボットアシストの前立腺手術、全身麻酔患者でTrendelenburg体位を2時間以上とっても頭蓋内圧はむしろ77→71に下がった。他の中心静脈圧や1回換気量、Spo2の変化も許容範囲だった(Br J Anaesth. 2010;104:433)

なんて報告があります。

(Br J Anaesth. 2010;104:433より引用)

(*蛇足ですが、前回ご紹介したようにTrendelenburg体位の各種パラメーターの変化は10分程度で消えることが多そうというのは、このグラフでも見て取れますね…)

少なくとも15分は大丈夫そうですし、

(CO2送気で気腹している全身麻酔患者という設定なので、ショックの患者にそのまま使えるかは断言できませんが)

2時間でも極端に大きなトラブルはなさそうです。

改めて、

Trendelenburg体位は肺活量の減少や頭蓋内圧亢進などの有害事象の可能性などは指摘されているが、短時間であれば、大きな問題なさそう

日々是勉強!

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