非典型こそ典型?!
この10年で急増している高齢者の救急搬送。そこに注目したのが今週のブログ。
ターゲットは救命士さんはもちろん、受け入れる側の若手医師、看護師(特に病棟)です。
昨日は高齢者救急の特徴として
①一見、軽症にみえる事が多い(でも実は重症 or 急速に重症化しやすい)
②診断しようとすると、実は難しい。∵症状が非典型的
③家族や普段介護にあたっているスタッフという「補助線」をひかないと、プロブレムが解けないことが多い
などのお話しをしました。
今日はそのうちの
診断しようとすると、実は難しい。∵症状が非典型的
を少し具体例を用いてご紹介していきます。
病院選定の救命士さん、必見ですよ?!
さて、
第1問
一見元気そうにみえる80歳男性。今日の朝から急に家族が何を話しかけても「はぁ?はぁ?」と聞き返してくる。家族が変だなーと思い救急要請。明らかな顔や四肢の麻痺、構音障害はない。さて、
どんな病気を疑いますか?
(ドラムロール…)
はい、正解は…脳血管障害でしたー。
もちろん上記の症状だけで完全な断定はできませんが、これ、「昨日まで普通だったのに、今日から急に」という病歴がポイントで、「突然発症」は大きな循環が詰まる病気:血管閉塞の病気を疑う典型です。
プレホスピタルで脳血管障害を疑うにはCPSS(シンシナティ病院前脳卒中スケール)が有名ですが、これ、感度66%、特異度87%とされています(Ann Emerg Med 1999; 33: 373)(慣れている人には陽性尤度比5.08、陰性尤度比0.39とお伝えする方がわかりやすい…かな?)。要は、CPSSで脳血管障害と思えば、そこそこの確率で確かに脳卒中。でもCPSSでひっかからなくても脳卒中の除外には全然使えないということを意味します。
(*救命士の方にはピンと来づらいかもしれません。この辺の感度・特異度の考え方の「概要」はプレホスでも大事です。以前このブログでも簡単にご紹介しました。よければこちらも )
実際、言葉を理解できないのは、確かに急な聴力悪化の可能性もゼロではありませんが、「音」は聞こえても「言語の意味を理解できない」という状態が鑑別に残り、実際にこれはWernicke失語を想定しています。こういった事例を耳鼻科単科の病院や精神科単科の病院に運ばないことが大事ですね(日老医誌 2011; 48: 312)
では、
第2問
84歳男性。「昨日まで歩いていたおじいちゃんが今日から歩けなくなった。意識もややぼんやりしている」で家族から救急要請。
バイタルサインは発熱なし、血圧上昇もなし。明らかな顔や四肢の麻痺、構音障害はない。さて、どんな病気を疑いますか?
(ドラムロール…)
はい、正解は…感染症でしたー。
(もちろん上記の情報だけで完全な断定はできません、念の為)
え?さっきは「急な発症なら血管閉塞疑えって言ったじゃん!」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
確かに発症形式は「急に」に見えるので、脳血管障害は確かに鑑別ではあります(軽微な麻痺をプレホスで拾えない可能性があるので)
ただ、脳血管障害で歩けなければそれは、四肢の脚の麻痺があるか、小脳失調があるかなどを疑いたいところ。意識もぼんやりと言われれば、脳卒中の場合、意識を司る脳幹や大脳皮質広範な病変が疑われますが、それで粗大な神経異常がひっかからないってちょっと変ですよね。
こういう一見「脳卒中かも」と思われて運ばれる「動けない」高齢者では感染症という事例はとても多いです(日老医誌 2011; 48: 312)。
「え?熱ないじゃん」というツッコミもあろうかと思いますが、高齢者で発熱しない、特に肺炎で咳嗽や痰がないことはよくあります…と感染症のオピニオンリーダー、岩田健太郎Drも論文で語っています(日老医誌 2011; 48: 447)
こういった事例を脳外科単科の病院に運ばないというのが大事ですね。
なお、これらの症例は高齢者に多い救急疾患(日老医誌 2011; 48: 312)という論文で実際に紹介されているものを(一部アレンジし)このブログで紹介しました。
…ね、難しくないですか?
でも、高齢者診療に慣れている人なら、どちらの問題も鑑別診断を大きくは外さないはずです。(ちなみに私もどちらも当たりました)
…ということで、
高齢者の内科疾患:診断しようとすると、実は難しい。∵症状が非典型的
ご納得いただけたでしょうか?
でもうまく診断できる人たちもおり、
高齢者は高齢者のフレームワークやTIPSが存在するというわけです。
その辺はまた明日以後ご紹介します。
日々是勉強!