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ABCの安定を極める ~airway③~

ABCの安定を極めると銘打って、

ABC managementのコツやエビデンスをご紹介します。

研修医が主なターゲットです(救命士さんは今回実務に直結しないかも)。

A: airway 気道 の続きです。

挿管前に必要な物品・確認事項:SOAP-MD

S:吸引の準備

O:十分な酸素化

A:気道を展開するための物品、その他:喉頭鏡、ビデオ喉頭鏡、挿管チューブ、トーマスホルダーなど

P:ポジション

M:心電図&Spo2モニター

D:義歯

を前回ご紹介しました。

その中で、今回は「十分な酸素化」のお話をします。

なお、前提ですが、これらは非心停止の患者の話です。

(その意味で心停止患者しか挿管しない救命士さんには今日の話は実務に直結しません)

非心停止患者の挿管をする時、事前の酸素化はすごく大事です。

というのは、酸素化が不十分でSpO2さがりはじめると、1分程度でSpO2 60%に低下 = 低酸素脳症などの合併症リスクあがるためです(もちろんその後すぐに換気ができてSpO2回復すれば問題ないのでしょう)

(West J Emerg Med. 2018;19:403より引用)

この事前の十分な酸素化は

バッグバルブマスク(BVM)を患者の顔に密着させて行うことが一般的です。特にfull stomach疑いの患者では、嘔吐を防ぐために、患者の自発呼吸に任せ、こちらからは圧をかけての換気をしない事が一般的です(そしてその後はRSIで挿管することが多いです。RSIはまた別の機会に…)

加えて、この酸素化は最低3分間は行うようにと言われています。

まず研修医の先生たちは、

事前の酸素化が大事、3分はBVMをあててしっかり待つということを覚えてください。

さてさて、さらに少しマニアックな話題に触れます。

この十分な酸素化をする際に、この数年、物議をかもしているのが、apenic oxygenationです。

apenic oxygenationはBVMで酸素化しているときに同時に鼻カニューレ(またはネーザルハイフロー)でも酸素を投与し、鎮静・筋弛緩かけて呼吸を止めて挿管している最中も鼻から酸素を投与し続けるという方法です。これにより、SpO2低下までの時間が伸びる、挿管完了までの最低SpO2値が低くなりすぎないなどの報告が後ろ向きの研究を中心にしばらく相次ぎ、一時話題になりました

…が、今なお結論の出ていない手技のようです。

 実際、この2-3年、RCTでは否定的な結論が相次ぎました

(Am J Respir Crit Care Med. 2016193:273やIntensive Care Med. 2019 Jan 21. doi: 10.1007など)

一方でsystematic reviewでは効果あるかも

(West J Emerg Med. 2018; 19: 403. 他にも、Crit Care. 2018; 22: 6. や Ann Emerg Med. 2017; 70: 483)

という報告が目立ちます。…が、これらsystematic reviewは各studyのapneic oxygenationの仕方がバラバラ、挿管手順がバラバラなのを集めてでの統合なので、有効かどうかは正直なんともいえないというのが本音です。

 非心停止患者でこの状況なので、ましてや心停止でapneic oxygenationの意義は不明です。ぱっと調べた範囲では帝王切開中の著明な肥満患者の心停止でapneic oxygenationがうまくいったというcase report(International Journal of Obstetric Anesthesia , 2017;29: 88)があった程度です。

つまり、

十分な酸素化は重要とはするものの、

ERやICUでapneic oxygenationすべきかは実は悩ましいようです。

ただ、個人的には挿管がうまくいかず低酸素を生じたときのリスクの方が大きい為、apneic oxygenationが完全に否定されるまでは、ERやICUでの挿管ではapneic oxygenationは行うつもりでいます。

今回だらだらしがちだったので、まとめます

①非心停止患者の挿管では事前の酸素化が大事、3分はBVMをあててしっかり待つ

②十分な酸素化の補助としてapneic oxygenationという方法がある…が、その有効性はまだ結論出ていない

日々是勉強!

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